マンガ『everybodyeverything』、DVD『hesheit』、よしもとばななの小説『なんくるない』の表紙、各雑誌の連載など、様々な活動を展開中のタムくんことウィスット・ポンニミット。確固とした目標があってそれに向かって努力してきた結果今があるというより、自分の好きなことをやっていたら気がついたら注目されてた…的な自然体な印象を受ける彼の魅力に迫ってみた。

大阪で開催中の、迷路をモチーフにしたユニークな個展『Melo』が好評のうちに終了したタムくんこと、ウィスット・ポンニミット。日本のアニメやマンガが大好き、音楽も大好きというバンコクの現代っ子そのものの彼は、タイ料理やタイ古式マッサージ、ムエタイといったステレオタイプのタイのイメージにはまったく当てはまらない。時にほほえましく、時に感動的に、時に残酷に。何気ない日常を鮮やかに描き出す才能は、新しいものを常に探し求めている高感度な日本人にも自然に受け入れられた。最近では、自作のアニメにピアノの演奏をつけていくという斬新なスタイルでのライブ活動も精力的におこなっている。マンガ家として様々な雑誌の連載を抱え、次々に新しいフィールドを広げている最中だ。
8月5日、6日には大阪と東京の2会場でおこなわれたイベント「SOI graf in summer 2005-but endless summer in Thailand」にも出演。彼の素顔と魅力に迫るべく、6日の東京でおこなわれたライブの前にインタビューを敢行した。まずは、前日大阪で行われたライブの模様から話を聞いてみた。
「大阪でのライブ? いいじゃない。よかった。うーん、どうだったかな〜。まあ、楽しかった。でも曲は毎回変わっちゃってる。曲を忘れちゃったりしてね(笑)。アドリブも多いかも」
と、感想を答えてくれた。今回のライブのために何か用意したことはあるのかと尋ねてみると、「あー、髪を切った! 髪型が違うかな〜(笑)」と少しボケ気味。とはいえ、ヘアスタイル以外にもちゃんと準備していたものがあった。

「新作を2作やったよ。1つはライブじゃなくて、ミュージックビデオを流しただけなんだけどね。そしてもう1つはスライドショー。これは大阪でしか売っていない『Lマガジン』っていう雑誌で連載しているんだけど、そこに載せた作品の中から選んでスライドショーにしたの。カラーでね」
ストーリーはというと…。
「スライドショーの方は簡単なストーリー。普段生活している中で起こるような、誰でも理解できるようなもの。深く考えなくても済むような楽しい内容のものなんだ。ミュージックビデオの方は…、う〜ん、難しいな〜。パっと見ただけではどんなストーリーなのかってちゃんと理解するのは難しいかもしれない。もちろん、僕の中ではひとつひとつちゃんとストーリーとしてつながってるんだけどね。
このミュージックビデオというのは、タムくん自身のミュージックビデオではなく、なんとスウェーデンのバンドからオファーされたものらしい。
「スウェーデンのバンドがたまたま僕のウェブサイトを見てくれて、僕の音楽を聴いてくれたみたいなんだ。それで、『ミュージックビデオを作ってほしいんだけど』って。だから、ミュージックビデオを作るけど、僕の作品の中でもこのビデオを使ってもいい? って聞いたら『いいよ』って言ってくれたから引き受けた。彼らの音楽を聴いてそのイメージでアニメを作って、彼らはそれをミュージックビデオとして使って、僕は自分の作品として使うと」
本国タイはもちろん、日本でも様々な雑誌の連載を抱え、個展やイベントも精力的に展開している中、スウェーデンのバンドからのオファー。活動がどんどん世界に向かって広がっているけど、それってどんな気分なの?
「あはは、少しずつね。世界に活動が広がっていく気分って、うーんなんだろう、自分ではよくわかんないな〜。なんとなく(自分が)大人になったでしょ? みたいな(笑)。でも、どんな風に成長しているかは答えられない。世界に活動が広がるってことよりも、いろんな人と会って一緒に何かをやって、それでいろいろ刺激をもらえるのが楽しい」
これから、誰か一緒に仕事をしてみたい人は? と聞いてみると…。
「う〜ん、なんだろ。僕とやりたいって言ってくれる人とやりたいかな」
と、あくまでもマイペースなタムくん。マイペースに自分が楽しいと思えることをひたすらやってきた結果、ふと気がついたら周りの人が注目してた、みたいな感じか。そのマイペースさは、自分で作ったアニメにピアノでBGMをつけていくというライブスタイルにも表れている。なんとこの斬新なアイデアは、致し方ない事情から生まれたものらしい。

「アニメに音楽を付け始めたのは、日本に来てから。1年半くらいかな〜。こっちに来てアニメ作って…。ひとりでアニメ作るのが初めてだったから、アニメの映像と音楽を1枚のDVDに入れる方法がわかんなかったの。だから、それだったらライブでやればいいんじゃないのーって」
今ではこのライブ活動がとても楽しいと言うタムくん。マンガを描くことと音楽活動をするのはまた違ったベクトルだと思うけど、気持ちの切り替えって難しかったりしないだろうか。
「マンガ描くだけだったら寂しい。だって机と自分だけだから。でも音楽だったらお客さんの顔が見えるし、すごく楽しい。音楽はマジックみたい。僕はそれがわかっているからやりたかった。音楽の活動はいっぱいやりたい。できるだけ(笑)」
とはいいつつも、やっぱり主軸になってくるのはマンガ。タムくんの描く世界はほのぼのしていたり、感動的だったり、エグかったりと様々。アイデアはどこから浮かんでくることが多いんだろうか。
「毎日。毎日の生活の中から、みんなを見て。いろんな人を見てる。人間ウォッチングするの、すごい好き(笑)」
最後にこれからやりたいことは?
「お客さんがライブを観に来てくれて一緒に楽しんでほしい! でも、歌はうたわないね、僕は」
なぜ?? と尋ねると、
「だって、恥ずかしい〜(笑)」
と、まるで子供のように無邪気に笑うタムくん。ライブでもほんわかしたムードが会場を包み込み、彼の持つ自然体な魅力に取り付かれていく人がどんどん増えていくんだろうな、ということが感じられた。

マンガ家、アニメ作家、ミュージシャン。76年生まれ。あだ名はタム。「MELO」展開催や、横浜トリエンナーレ、IIDでの個展などを控えノッて来てるバンコクっ子。バンコクの音楽レーベルsmallroomのドラマー(元)、今はピアニストに転向中。無声アニメにピアノ伴奏をつける七色のパフォーマンスで感動と笑いをお届け中。作品にマンガ『everybodyeverything』、DVD『hesheit』、よしもとばなな『なんくるない』表紙イラストなど。円盤から音源もリリース。