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タイ料理をはじめとしたタイの文化はもちろん、まだタイポップスがほとんど知られていない1996年頃から、インターネットを通じてタイの音楽を紹介してきた原田哲也さん。今ではCDやDVDの輸入・販売に止まらず、チャイナドールズなどのトップアーティストのライブや、オリジナルレーベル「サワディーミュージックレーベル」の運営など、その活動は多岐に渡る。「タイミュージックのことならサワディーミュージックに聞け!」と言えるくらいの地位を築き上げたと言っても過言ではないが、今に至るまでにはやはり相当の苦労があった様子。涙ナシでは語れない(?)原田さんのサクセスストーリーをとくとご覧あれ。

最初は趣味程度でスタート
儲けようなんて思ってなかった

遠藤 : まずはお仕事としてタイに関わるようになったきっかけから教えてください。

原田 : 関わるようになったのは12年ぐらい前かな。その頃はまだCD自体が3,000円(タイでの価格は約1,200円)以上していた時代なんですよ。

遠藤 : 12年前というとまだタイポップスなんて知られていなかった時代ですよね。

原田 : そうですね。CD屋に1〜2枚くらいひっそりと売られてはいましたけど、あっても伝統音楽くらい。その頃はもちろん通販なんてなかったです。で、95年くらいからインターネットが流行りだして、ホームページが出てきたんですけど、タイの情報は2〜3個しかなかったんですね。それで96年くらいにタイの情報サイトを立ち上げたんです。「サワディー タイランド情報」っていう名前でした。普通にタイの観光スポットとかタイに関する情報と共に、当初から音楽の情報も書いてました。タイの情報を書く人はいても、タイ音楽のネタを書く人なんていなかったですし。そして98年頃に音楽の部分だけをバラして音楽情報のサイトを別に作ったんですよ。その頃からCDを売り始めました。

遠藤 : なぜ、実際にCDを売ろうと思ったんですか?

原田 : 大きな理由としてはまず、日本での販売価格が高かったから。当時、日本でタイのCDが3,000円以上してたんですけど、でも現地での価格は290バーツくらいなんですよ。それで私はCDを1,600円で売り始めました。趣味程度で売り始めたんで、「儲けよう!」なんていう勢いもなかったです。ただ、身近に聴いてもらえる値段はいくらかと考えた時に、1,600円くらいが妥当ではないかと。

タイ語を覚えるよりも先に
タイ語の歌を覚えました

遠藤 : もちろん、もともと原田さんはタイ音楽が好きだったわけですよね?

原田 : もともと僕はサイトを始める前、94年にタイに行ったのをきっかけに、その後1年に2回くらいはタイに行ってたんです。で、行くたびにCD屋に行ってテープを100本くらい買って帰ってきてたんですよ。それで聴いているうちにハマっちゃったというか。僕はその頃タイ語がまったくわからない状態だったんですけど、話すよりも先にタイ語の歌を覚えてしまったんです。だからタイに行ってコミュニケーションを取る手段はといえばタイ語の歌。日本人がタイ語の歌をうたうとかなり盛り上がりましたね。日本でも新宿のタイ料理屋でカラオケしたりしてたんで、そういうのが高じてCDでも売ってみようかな、と。

遠藤 : 仕入れはどうしてたんですか? タイに行くたびに仕入れてきてたとか?

原田 : 新宿のタイ料理屋などでよく一緒に遊んでいた日本人の人がいたんですけど、その人がタイに赴任することになって「タイからCDを送れるよ」と言ってくれたんで。それで最初はその人に2ヶ月に1回、100枚ほどの商品を送ってもらってたんですよ。私も1年に2回はタイに行ってたんで、その時にごっそりCDを買って来て…というのが1年くらい続きました。CDを買うときも売れる傾向なんてわからないんで、店員に勧められるままに買ってたって感じで。

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「今、一番問い合わせが多いのはトンチャイです。ニューアルバム『volume 1』がリリースされたばかりなんでぜひ聴いてみてください」と、原田さん。

遠藤 : でも、1,600円での販売ってかなり良心的ですよね。

原田 : ええ。当時の相場ですと半額近い値段ですから、周りからものすごく叩かれましたけどね。でもそれで他の業者も値段が下がったという。

遠藤 : へぇ。そうだったんですね。では言ってみれば安くCDが安く買えるようになった功労者ですね。でも、売れました?

原田 : いやいや。当時はまだ会社員だったし、CD販売を本業にしようなんてまったく思っていなかったし。はっきり言って98年当時はタイ音楽なんて売れるような時代じゃない。でも、リスナーが全然いないかといえばそうでもなくて、実は聴いている人もいたわけです。タイ音楽に関する情報は日本ではまったく流れていなかったけど、「タイから帰国したけど、日本でもタイ音楽を聴きたい」という駐在員が何人かいて、それがどんどん広がっていったんです。一番大きかった波は2000年ですね。2000年にバンコクでNHKとタイのチャンネル5との共同制作で「アジア・ミュージック・フェスティバル」というアジア最大の音楽フェスティバルが開かれたんです。日本からはモーニング娘。や鈴木あみ、タイからはニコルやチャイナドールズ、MR.TEAMなどのトップアーティストがこぞって出演しました。当然NHKでも放映されたんで、この模様を観た人が多く、今までタイの音楽を知らなかった人たちに「タイにもこんなポップスやロックがあるんだ」っていう認識を多少植え付けることに成功したというか。そこから徐々にタイポップスを聴く人が増えてきたんですよ。

遠藤 : なるほど。この辺りから売り上げがアップするわけですか?

原田 : そうですね。でも、まだまだという状態です。商品のストックはどんどんどんどん増えていきましたけどね。それで、2000年に会社を辞めました。1月に個人事業の登録をして、5月に会社を辞めて有限会社を作ったんです。個人事業の方はCDの販売をメインにして、有限会社はウェブの広告会社を作りました。

給料が出ていなかった約3年間
家にはほとんど帰っていません

遠藤 : じゃあ、2000年に会社を辞めたときっていうのは、CDの販売でうまくいく…っていう予想があったんですね。

原田 : いや。この時はウェブの広告会社がメインで、CD販売はあくまでも副業のつもりでした。ところが、広告会社の方は1年半で潰してしまって、400万くらい借金を作っちゃったんですけどね(笑)。友人と経営していたんですけど、営業などを任せていた友人に金をふんだくられてしまったというか…。でも、逆にCDの方の売り上げはどんどん上がってきてたんです。当時僕は荻窪に住んでたんですけど、商品が入らなくなってきてしまったんで、今度は阿佐ヶ谷にアパートを借りてそっちに仕事場を移してそこでネット販売をやってたんですけど。

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左の棚は、98年にCDの販売を始めた当初に購入した記念すべき棚。その棚がいっぱいになり、次に購入したのが右の棚。現在も新宿の店舗で現役活躍中!

遠藤 : そうなんですか…。

原田 : メインの会社が潰れてCDだけでなんとかしないといけない状態になったのが2002年。2002年の後半はかなり死んでましたよ(笑)。実は会社を辞めてから3年くらい家にお金を一銭も入れてないんです。要は支出だけで収入はゼロの状態。この頃は会社の退職金を繋いで生活してました。ただ、売り上げもあったんですよ。でも、売り上げをすべて在庫を補充するために使っていたもので…。

遠藤 : なかなかハードな生活ですね。生活が安定してきたのはいつくらいなんですか?

原田 : 2003年の5月に仕事場を阿佐ヶ谷から新宿に移して、店舗の販売を始めたんです。これが今のサワディーショップなんですけど。安定してきたのは新宿に来てからですよ。ようやく当時、家に10万ずつ入れられるようになって…。新宿に店を持ってきたことで売り上げが今までの倍になるんですよ。今まではネット販売だったんで、どんな音楽なのか実際に聴かないとわからないから買うのをためらっていた人や、通販で買いたくないという人が店に来て買ってくれるようになったんです。それに今までネットでしか付き合いがなかった人たちが実際に店に来てしゃべりながら商売できるというのも大きくて、売り上げが上がったんです。今ではもちろんちゃんと給料も出ています(笑)。

遠藤 : お給料が出ていなかった時はやっぱり家族の中では肩身が狭かったんですかね?

原田 : そうですね(笑)。家にほとんど帰ってなかったですけどね、気まずかったんで。まぁ、今も気まずいっちゃあ気まずいですけど(笑)。

マニアックな世界だったタイ音楽の壁が
どんどん下がって入りやすくなった

遠藤 : 当時はともかく、今はがんばってるんだなっていう認識でいてくれるんじゃないですか? タイポップスを広めたパイオニアですよね。今では様々な雑誌でタイ音楽の記事を書くまでになっていますし。今の活動は音楽ソフトの販売だけに留まっていませんよね。レーベルを運営したり、イベントをやったり。

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『CHINA DOLLS WELCOME TO JAPAN』(3780円)。今年3月にサワディーミュージックレーベルからリリースしたCHINA DOLLSのDVD。昨年大阪で来日ライブを行った彼女たちの姿をたっぷりと収録!

原田 : そうですね。2003年頃にタイ最大手のレコード会社グラミーと直接コンタクトを取れるようになったのは大きいですね。前から日本で何かできればいいなとは思っていたんですけど、タイミングよくグラミーに日本人の社員が入ったんです。日本の某レコード会社に勤めていて休憩のつもりでタイに行ったらなぜかタイで一番大手の会社に入ってしまったTさんという人なんですけど。その当時Tさんはタイポップスの知識がほとんどなく、ネットでいろいろ調べているうちにウチの店が出てきて、それで「日本のタイ音楽の状況はどうなってるんですか?」って感じで連絡をくれたことがきっかけで話すようになったんです。それが、今年自分でチャイナドールズのDVDをリリースすることに繋がっていくんです。さらに今年の4月にはチャイナドールズのライブを開くこともできましたし。2004年くらいからタイ音楽を取り巻く状況が良い方向に急速に変わってきましたね。

遠藤 : 急速にタイ音楽が浸透していった理由ってなぜだと思います?

原田 : お客さんいわく、タイの音楽は曲調や雰囲気に違和感がないそうなんです。他アジア地域の音楽は、ポップスでもどうしてもその国独特のメロディや曲調が入ってくるんですが、タイはその辺に違和感がなくスムーズに入っていける。あとは、ネットの普及で情報が出回るようになったこと、旅行に行く人が増えたのが大きい。それからもともとタイを好きだった人が次のものを求めた結果だと思います。タイ料理を食べてタイ料理屋さんに入り浸って、次に何に行くかといったらやっぱり音楽や映画などの文化面でしょうね。テレビや映画がタイでロケをしたり、タイの特集番組なども多いですし、マニアックだった世界がかなり身近になってきて入りやすくなったということでしょう。

遠藤 : なるほど。このアーティストのおかげで今の自分がある! みたいなのってあります?

原田 : それはやっぱりニコルとチャイナドールズですね。この2アーティストがなければ売り上げは立たなかったと思います。それにチャイナはDVDを出し、イベントもやったということで思い入れは強いです。イベントは大変でしたけど、やってよかったなぁ、と。

魅力ある国の人が作る音楽なんだから
魅力がないわけない!

遠藤 : そんな原田さんにとってズバリ、タイの魅力、タイ音楽の魅力とは?

原田 : うーん、難しいですねぇ。ひと言ではとても難しいですが、やっぱり“サヌック”って言葉に集約されるかな。仕事もそうですけど、気持ちの面も含めてサヌックなところですね。おもしろい話があって、日本で私がタイ料理屋に行ったら外国人が一人でご飯を食べていたんです。その外国人となんとなく話したんですけど、お互いにタイ語で話してるわけです。日本にいる外国人ってあんまり日本語を覚えませんけど、タイにいる外国人はみんなタイ語を覚えようとします。それはやっぱりそれだけタイに魅力があるからだと思うんですね。そういう魅力ある国の人が作る音楽なんだから、魅力がないわけないんです。それにヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなんかにもタイのCDショップがある。タイのアーティストもよく海外にツアーに行っているし、実は海外でのタイのマーケットというのは日本よりもはるかに大きいんですよ。

遠藤 : そうなんですね。タイの音楽は確かに魅力的だと思いますけど、良く言えばバラエティ豊か、悪く言えば節操がないというか、ジャンルに対してのポリシーが薄いような印象も持ってしまうのですが。

原田 : あー、確かにそういう部分は非常にタイっぽいですね(笑)。でも、イイと思うものはイイじゃないか、みたいな姿勢がたまらなく好きですね。

遠藤 : では最後に今後の野望を教えてください。

原田 : やっぱりまずは音楽。コンサートですとか、CDのリリースなどをもっともっとオリジナルでやっていきたいですね。

遠藤 : またリトルタイランドやタイフェスティバルのようなタイの文化イベントを一緒にやりましょう。今日はありがとうございました!

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SAWADEE SHOP新宿店

住所 : 東京都新宿区西新宿7-12-14
TEL : 03-3366-0877
営業時間 : 水〜金15:00〜21:00 土日12:00〜17:00
定休日 : 月、火
アクセス : JR新宿駅より徒歩7分、西武新宿駅より徒歩5分、東京メトロ西新宿駅おり徒歩3分
URL : http://www.sawadeemusic.com/